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名古屋地方裁判所 昭和48年(ヨ)388号 決定 1973年4月19日

申請人

日本共産党愛知県委員会

右代表者

井田誠

右代理人

伊藤泰方

外一〇名

被申請人

杉戸清選挙事務所

右代表者

佐藤哲三

被申請人

フレッシュ名古屋市民会議

右代表者

戸刈近太郎

主文

本件申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一、申請人の求める裁判

被申請人は別紙新聞を配布したり、第三者に引き渡したり等一切の処分をしてはならない。

申請人の委任する名古屋地方裁判所執行官は、被申請人が現に占有している別紙新聞に対する占有をといて自ら占有し、且つ保管しなければならない。

第二、当裁判所の判断

申請人の本件申請理由は記録に編綴してある仮処分申請書のとおりであり、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

一先ず被申請人杉戸清選挙事務所に対する申請であるが、公職選挙法にいう選挙事務所とは選挙に関する事務を取扱う一切の場所的設備を指し、候補者または推せん届出者が設置するものであつて、いわば選挙運動の本拠というべきものであるが、それはあくまでも場所的設備であつて、選挙運動を統括する団体ではなく、また公職選挙法上の総括主宰者がその代表者というわけでもないから、結局右被申請人は当事者能力を有しないというべく、従つてこれに対する本件申請はこの点において不適法であつて却下を免れない。

二次に被申請人フレッシュ名古屋市民会議については、<証拠>によれば今回の名古屋市長選挙(昭和四八年四月二日告示、同月二二日投票)に立候補している杉戸清を支援する団体であつて、それが政治資金規制法の届出をしているかどうか判然としないが、各種政治活動をつうじて右候補者の当選を期して運動しているものであつて、代表委員以下の役員も揃つた組織体であると認められることからして、権利能力のない社団として当事者能力を肯定できる。

三そこで被申請人フレッシュ名古屋市民会議に対する申請について検討する。

(一)  先ず申請人が配布の禁止並びに執行官保管を求める昭和四八年四月一三日付別紙国民新聞号外であるが、<証拠>からして、被申請人会議が同紙の配布に関与しているものと窺われるところ、この掲載記事を仔細に検討すると、これは日本共産党機関紙赤旗の記事、同党々大会における決議、雑誌文芸春秋、同諸君の記事等を引用し、共産党批判の立場から同党の政策や活動を論評解説し、最後に日本が共産化したら国民生活はどうなるかと題し(1)天皇、皇室は即時追放、(2)国の体制は共産党の一党独裁、(3)言論の自由については共産主義に反対したり批判したりする自由はない等と七項目について結論づけた内容を掲載したものでこれらは通常の報道記事ではないけれども右記事の各表題は、いずれもかなりどぎついもので、読者に強い印象を与えることを特に意図したかに窺われ、その記事の内容も一貫して激しい日本共産党批判に向けられていることから、読者に同党に対する不信感を抱かせることが右記事の最大の狙いであるとみるのが相当である。

(二)  ところで、このような論評解説が公正なものであるかどうかはこれを読む人の主観によりある程度見方が異つてくるであろうが、少くとも<証拠>から認められる日本共産党綱領の内容や機関紙の記事を虚偽であるとか偽装であるときめつけたうえ、日本が共産化したときは日本共産党が日頃主張していることろと全く異る社会状況となる旨結論していることは、同党の下部機関である申請人において事実を不当に曲げ公党の名誉を侵害する不公正なものとみるのは当然のことであろう。しかし、一面この記事内容の大部分は一部の反共産主義論者によつてつとに主張されているところを、その表現を激しく辛らつにしたものでもある。

四しかして本件において申請人はいわゆる差止請求をするものであるが、言論出版により名誉を侵害されようとしているもの、または現に侵害をうけつつあるものが、侵害行為の事前の抑制ないしは持続する侵害行為の停止や除去を請求することの可否については、憲法の保障する表現の自由との接点ともなることから議論の存するところであるが、右侵害行為が差止められることによりうける加害者側の不利益と差止めによつてうける被害者側の利益を比較衡量のうえ、前記憲法の精神を体し、これに深い配慮を払つたうえ、なお必要止むをえない場合に限つてこれを肯認すべきものというべきである。

五しかるところ本件においては

(一)  この記事の内容は前記事情から一部読者にとつては格別目新しいものではなく、日本共産党もこれらにつき折にふれて言論で反論していること

(二)  右国民新聞号外の配布ないしは配布予定部数は判然とせず、またどの程度の地域的範囲にどのような規模で配布され或いはされようとしているか疎明上明らかでないこと

(三)  右新聞は格別著名な新聞ではなく、特に名古屋地方では定期的に発行されているものではないから、一般の日刊新聞に比し、読者ないしは社会に対する影響力は較べるべくもないところ、申請人の主張によると、日本共産党は創立五〇周年、党員三〇万人以上、機関紙赤旗の読者二五〇万人、国会議員四八名を擁し、全国的な組織をもつ政党で、申請人はその下部にある地方機関であり、申請人が日本共産党に対する前記認定のような内容形式での批判論難によつて致命的打撃をうける程脆弱な組織とは考えられないこと

(四)  申請人は前記市長選挙に立候補しているもと山政雄にとつて回復し難い損害が発生すると主張するが、右新聞は同候補については一言も触れておらず、且つ本件申請はあくまでも日本共産党愛知県委員会からのものであるから、右新聞の発行の意図が同選挙における特定候補の当落に影響を与えようとするものであることは推認されなくはないけれども、この点を過大に考慮することはできないこと

右のように認められる。

六以上疎明された事実関係にもとづいて検討すると、被申請人フレッシュ名古屋市民会議に対する名誉毀損にもとづく差止請求は、かりに右被申請人につき申請人の名誉を侵害する不法行為が成立したとしても、前記差止の必要性については未だ疎明が充分ではなく、さらに申請人の主張するように、右新聞号外の配布に関し右被申請人に公職選挙法の規定に反する所為があつたとしても、それだけでは直ちに申請人にこれを排除する民事上の請求権が発生するものとも解されないから、結局申請人の被申請人フレッシュ名古屋市民会議に対する申請も失当として却下することとする。

よつて主文のとおり決定する。

(宮本増)

別紙新聞<略>

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